会長よりご挨拶

 2023年3月から2年間学会長を務めます九州大学の佐藤宣子です。会長就任に際し、ご挨拶を申し上げます。

 林業経済学会は1955年の発足から68年目となり、2年後に70周年を迎えます。学会では70周年記念事業特別委員会を設置し、50周年記念誌の電子データ化と公開、今後の研究課題をワークショップ形式で探るリサーチクエスチョン事業など、様々な計画を進めています。春のシンポジウムでの徹底討論、秋季大会での企画セッションと自由論題報告の実施、および年3号の学会誌発行とともに、70周年記念事業を成功させたいと存じます。会員の皆さまの積極的な参加とご協力をお願い申し上げます。

 また、非会員の皆さまには、会員になって、研究会などへの参加・報告や論文投稿をしてくださるようにお誘い申し上げます。「林業経済学」という学会名ですが、人と森林との関係性をテーマとする社会科学、人文科学研究を幅広く取り扱っています。

 学会が発足した1955年は戦後高度経済成長の起点ともいえる年であり、戦後の活発な造林が始まり、木材が不足していた時代です。木材を安定的に供給するために、林業の発展が国民からも強く求められていました。そうした中で、林野制度を中心とした戦前の林政研究から、経済理論に基づいて林業の諸問題を議論する場として、若手研究者の呼びかけで発足したのが林業経済研究会です。「林業経済研究会報」を読むと、経済主体である林業経営の特質や平均利潤を求めうる林業の発展可能性が時に激しく議論されたことが分かります。

 1978年に研究会から学会に組織変更し、学会誌「林業経済研究」の刊行が始まりました。その頃から木材を供給する林業だけではなく、森林が様々な環境保全機能と文化サービス機能を有し、1990年代からは二酸化炭素の吸収源であることが注目されるようになり、研究テーマや対象が広がってきました。一時期は林業経営や木材産業に関する研究も少なくなっていました。そうした中、2010年代になって、戦後の造林木が利用期を迎え、成長産業と称されるほどに素材生産が活発化しています。木材は循環資源であり、炭素を固定することから木材利用が温暖化対策としても位置づけられるようになっています。一方で、山村の過疎高齢化の進展、それに伴う境界不明森林の増加、皆伐後の再造林率の低さ、気候変動下での災害の激甚化、病虫害や獣害の広がりなど、持続的な森林管理・経営にとって様々な課題が顕在化しています。林業生産と森林環境保全の調和、それを支える山村地域の持続可能性などの実証的な解明やそれを踏まえた社会経済政策の理論化といった森林分野の社会科学研究が求められています。

 活発な研究活動のためには、若い研究者が闊達に研究成果を発表し、様々な人々との議論や対話の場が必要です。国内だけではなく、研究成果の国際的な発信や交流が求められる時代にもなっています。できるだけ、そうした機会を提供できる学会を目指したいと思います。同時に、若い研究者を育てるべきシニア研究者が現在さまざまな業務に追われ多忙化しています。新たな技術を使って学会活動を効率化することで、学会の組織運営の持続可能性を高めることも70周年を期に必要だと考えます。

 皆さまのご協力を再度お願いして、挨拶といたします。

 2023~2024年度 林業経済学会会長  佐藤宣子

歴代会長(1998年度の学会運営体制の変更以降)

2021~2022年度会長 古井戸 宏通
2019~2020年度会長 堀 靖人
2017~2018年度会長 枚田 邦宏 
2015~2016年度会長 柿澤 宏昭
2013~2014年度会長 土屋 俊幸
2011~2012年度会長 志賀 和人
2009~2010年度会長 永田 信
2007~2008年度会長 神沼 公三郎
2005~2006年度会長 餅田 治之
2003~2004年度会長 石井 寛
2001~2002年度会長 堺正紘
1998~2000年度会長 笠原義人

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