2013~2014年度 会長

会長よりご挨拶 

 林業経済学会の前身、林業経済研究会が発足したのは1955年です。当時、日本の森林・林業を取り巻く環境は、第二次世界大戦後、経済が急速に回復し、高度成長に向かう途上で、木材需要の急激な増加、大規模な人工造林の進展、国有林の再編と積極的な経営の展開、紙パルプ産業の成長等々、激変の渦中にありました。森林・林業を対象に社会科学的視点から研究を行う分野としては、戦前から林政学があったのですが、その官房学的、体制内的体質を批判し、経済学理論に基づいた科学的分析から政策を批判的に検証していこうという運動が若手研究者を中心に拡がり、その主導的組織として生まれたのが林業経済研究会でした。その後、研究会の体制は学会へと移行し、研究の動向も大きく変化しましたが、当時の研究会が持っていた、会員間の活発な議論を重視する姿勢、権威よりも風通しの良い組織を尊重する姿勢は、現在の林業経済学会にも伝統として引き継がれています。
 現在の学会員数は約400人で、大学、(独法)森林総合研究所を中心とした研究機関、関連団体・企業・NPO等に所属する研究者、国・都道府県の行政職員等によって構成されています。なお組織としては、1978年に学会組織に移行し、さらに、1998年には学会運営について抜本的改革が行われ、現行の総会・評議員会・理事会・会長という体制が確立しました。学会会則によれば、学会の目的は、「林業、林産業、山村さらには人間と森林との幅広いかかわりに関する社会科学および人文科学の理論的・実証的研究の向上」、他となっており、「林業」を対象とした「経済学」という、当初の範囲から大きく領域を拡げています。学会誌『林業経済研究』を年3回発行するほか、春季・秋季の2回の大会を全国の主に大学を会場として巡回開催しています。
 因みに、2013年の春季大会(岩手大学)シンポジウムのテーマは「新政策の狙いと限界」として、2009年の政権交代後、政府が中心的政策の一つとして推進した「森林・林業再生プラン」の評価を、林野庁の政策担当者も交えて議論しました。また、2013年秋季大会(高知大学)では、3つのテーマ別セッション(欧米における林業組織・制度改革の動向、山村社会のこれから、再生プラン後の森林管理・林業生産の動向)を中心に約60題の報告討論が行われました。各報告の発表・質疑応答時間は30分で、ここにも議論を大切にする我が学会の特徴が表れています。
 今後の学会の方向性について、私見を述べさせていただければ、一つは、森林・林業・山村に関連した政策の形成にどのように関わっていくかです。上述の「森林・林業再生プラン」に基づく諸政策の策定に当たっては、5つの検討委員会に計12名の学会員が委員として参画しました。このことは、われわれの学会が政策形成に関わった一つの証左なのですが、私自身、委員の一人として参画して強く認識したのは、政策形成に真の意味で関わり、課題・問題に対する自らの考えを政策に反映させるためには、現場へのさらに鋭い切り込みと政策形成過程のさらに広い認識、そして問題の本質を理解するためのさらに深い理論的検討が求められている、ということでした。要するにこれは、学会としては、その本来の機能をさらに発揮していくことが求められている、ということであり、学会の活動水準をより高めていくことが必要と考えています。
 もう一つは、今夏に九州大学で開催された国際森林研究機関連合(IUFRO)の「小規模林業」・「ジェンダーと林業」両グループの合同研究会に、共催団体として参加して感じたことです。コミュニティを基礎とした森林管理、地域における小規模私有林の管理には様々な形でこれまでも女性が関わってきたのですが、今後、さらにその役割が増大していくことが、途上国、先進国を問わず認識されています。ところが、日本の林業経済研究においては、この問題に対する取り組みが非常に遅れていることが明らかになりました。様々な社会問題に敏感であらねばならない社会科学者として、この立ち後れは非常に残念なことでした。今後、どのように取り組んでいくかを学会全体として考えていかなければならないと思っています。

2013~2014年度 林業経済学会会長   土屋 俊幸

*JATAFFジャーナル(2巻2号)p50「トピックス 今学会では」(2014年2月発行)に掲載

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