2019~2020年度 会長

会長よりご挨拶

 林業経済学会は、戦後の混乱がおさまり、日本が高度経済成長期にさしかかる時期の1955年に林業経済研究会として発足し、1978年に研究会を改組して学会となりました。研究会発足以来64年、学会となって41年という歴史を刻んできました。この間、日本の経済、社会は変容し、それに合わせて林業や山村社会を取り巻く環境は大きく変わってきました。林業経済学会は、そうした実態を調べ、経済社会の構造や因果関係を明らかにして、問題を提起し、対策や政策を提案することで社会の一員としての役割を果たしてきました。
 とはいえ、まだまだ解決すべき課題は山積みです。これまでに経験のない課題も出てきています。たとえば、経済のグローバル化の深化と新自由主義による格差拡大、他者への寛容さの欠如、民族間の対立の激化、移民問題といった世界的な潮流は日本社会にも少なからず影響を及ぼしてきています。国内においては、少子高齢化にともなう人口減少が過疎地域だけではなく、全国的な課題となってきています。経済面ではデフレ経済からなかなか脱却できず、技術面では、情報化、人工知能(AI)やロボット技術が一層の進展を見ています。森林、林業、山村社会に目を向けると、森林資源が充実し、多くの森林が収穫可能となっています。しかしながら、林業従事者数は減少傾向にあり、林業労働は相変わらず、危険を伴い、過重な労働です。ニホンシカをはじめとした野生動物による被害は持続的な林業の脅威となってきています。さらに、2019年度は、森林、林業政策においても、森林環境税および森林環境譲与税による財源を得ると共に新たな森林管理システムがはじまる節目となります。
 森林、林業、山村社会をとりまく閉塞感を打開し、これまでに経験のない課題に取り組むには、新たな技術の導入が必要であり、新たな技術導入を可能とする社会的な仕組みの提案や社会的経済的影響の分析など人文、社会科学分野の研究がますます必要となります。林業経済学会としても過去の資産を活かしながら、多様性をもって対応してゆく必要があります。幸いなことに、林業経済学会会則では、本会の目的を「(1)林業、林産業、山村さらには人間と森林との幅広いかかわりに関する社会科学および人文科学の理論的・実証的研究の向上、(2)国内外における研究交流の促進および会員相互の研鑽」と定め、間口を広くとっています。枚田邦宏前会長の任期中に会員の一部の方々から学会名称を研究対象に合わせて変えるべきではないかとの意見をいただいており、理事会においてもワークショップを開催して学会のあり方を短期、中長期に分けて整理する機会をもちました。林業経済学会の美徳の1つとして、年齢や性別、所属、専門分野に関わらず、誰しも自由に意見が言えて、民主的に運営してきたことが挙げられます。会員の皆様からいただいた意見は理事会でも共有しています。
 現状や新たに直面する課題について、短期的には、研究会Box、シンポジウム、会員による学会報告、『林業経済研究』誌への投稿論文を通じて情報発信をしていくことで、より広い分野に林業経済学会の活動を周知していきます。とくに、森林、林業政策の節目に際して、国や都道府県や市町村の行政にたずさわる方々の参画も促していきたいと考えています。これらはささやかな取組かもしれません。森林が時間をかけて巨木の森となるように、林学において保続原則が生み出されたように、小さな努力を継続していって、アカデミズムの分野のみならず、林業や山村地域を支えている方々からも信頼を得られるような学会であり続けたいと思います。
 最後に、会員の皆様の日頃からの切磋琢磨はもちろんのこと、積極的に他流試合にも取り組み、林業経済学会を盛りたてていただくことを期待しております。

2019~2020年度 林業経済学会会長    堀靖人

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